大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)3941号 判決 1954年3月26日

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所岡山支部に差戻す。

理由

弁護人松岡一章の上告趣意第一点及び同戸田善一郎の上告趣意第一、二点について。

所論は、原判決の憲法違反、判例違反をいうけれども、原審において控訴趣意として主張せず、その判断を経ないところであるから刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかし職権で調査すると、原判決の容認した第一審判決は、麻薬施用者の資格を有する被告人が他人又は家畜の疾病治癒のためでなく自己の中毒症状緩和のため塩酸モルヒネ水溶液を自己の身体に施用したとの事実を認定しているところ、右第一審判決は本件公訴事実に包含せられず従って何ら犯罪の対象として認定せられていない証第三号の燐酸コデインについて、右は所持を禁止せられた物件であるとして刑法一九条一項一号、二項に則り没収しているけれども、これは明らかに法令の違反であり、これを容認した原判決は刑訴四一一条一号により破棄を免れない。

弁護人松岡一章の上告趣意第二点及び同戸田善一郎の上告趣意第三、四点について。

所論は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかし職権で調査すると、第一審判決は百倍用塩酸モルヒネ散(証第二号)を本件犯罪行為に供せんとしたものとして刑法一九条一項二号、二項に則り没収しているけれども、当裁判所が職権で調査したところによれば、塩酸モルヒネ散は経口投与のために調製せられるもので、これを注射用に変換するには賦形薬たる乳糖を分離し、塩酸モルヒネを遊離し、生理食塩液に転溶して滅菌法を講ずる等複雑な操作を必要とするに加え、本件行為当時被告人は麻薬施用者として適法且つ容易に注射薬たる塩酸モルヒネ末を入手し得ていたものであるから、他に特別の事情の認められない限り、右百倍用塩酸モルヒネ散を本件犯罪行為に供せんとしたものとして没収した第一審判決は違法であり、これを容認した原判決は刑訴四一一条一号により破棄を免れない。

弁護人松岡一章の上告趣意第三点及び同戸田善一郎の上告趣意第五点について。

所論は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかし職権で調査すると、原判決の容認した第一審判決は、被告人が昭和二三年五月一日から昭和二六年四月一四日までの間一〇七六回に塩酸モルヒネ水溶液を自己の身体に施用した行為につき麻薬取締法三八条一項、五七条、刑法四五条、四七条を適用しているところ、麻薬取締法は昭和二三年七月一〇日に施行せられたのであって同日以前の行為については同法六五条、七四条により麻薬取締規則三四条、五六条を適用すべく、しかも該規則の法定刑は麻薬取締法の法定刑よりも軽くなっているのである。それ故麻薬取締法施行前の行為につき同法を適用した第一審判決は違法であり、これを容認した原判決は刑訴四一一条一号により破棄を免れない。

よって両弁護人の爾余の論旨に対する判断を省略し刑訴四一三条に則り裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例